「初回4失点」の思い出

 1回、中西(手前)から走者一掃の先制二塁打を放つ前川(撮影・立川洋一郎)
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 【5月4日】

 中西くん、久しぶり。甲子園で見たあなたのフォークボールは今もよく覚えていますよ。でも、ごめんなさい。あの夏、僕が声を潜めて応援したのはあなたの学校とは逆側の席でした。

 正直に書けば、めちゃめちゃ憎らしかった。だって勝てると思ったから。こっちは左右のWエースを擁していたし、プロ注目のスラッガーが二人もいた。そのうちの一人はあなたから2本ヒットを打ったんだけど、チームとしては四回から登板したエースのあなたに8つの三振を喫してしまった。

 スコアもよく覚えています。あなたのチームに許した「初回の4点」が痛かった。あの4点を力に最後まで腕を振りきったあなたに完敗でした。

 21年、夏の甲子園。「智辯対決」のファイナルを観戦したのは、奈良の智辯学園に家族ぐるみで付き合いのある3年生捕手がいたから。そして、その彼の親友がプロ注目のスラッガーだったから。コロナ禍で観客は内野席の一部のみ。あの夏から5年。中西聖輝の日本一のガッツポーズをナマで見させてもらった数少ない一人として、悔しいけれど、プロ初勝利、おめでとう。

 智辯和歌山のエースとして日本一に輝いた中西の大きな瞳を覚えている野球ファンは多いかもしれない。その彼がドラゴンズで輝かしい11番を背負い、「初回の4点」を力に5年前の夏より一つ多い9つの三振を奪った。

 正直に書けば、憎らしい。だって勝てると思ったから。3点先制したのだから。初回に走者一掃の長打を放ったのは、あの夏に中西から2安打した前川右京。両者の再戦を心待ちにしていたので、懐かしいフォークを捉えた右京の打球がバンテリンドームの右中間を深々と破ったときは声をあげてしまった。手拍子しかできなかった5年前の分まで。

 しかし、右京は再び敗れてしまった…。内輪話といえば大袈裟かもしれないけれど、智辯対決の決勝で屈した右京に聞いたことがある。

 甲子園の決勝までいって、しかも、よく知る相手。悔しかったよな…。

 「悔しさはなかったんですよ。3年間の練習もそうですけど、やりきりましたから。やりきって負けたので」

 なるほど、そうか…。少しでも手を抜いたり、怠けがあれば「もっとやっておけば…」の悔恨は募るが、智辯の厳しい練習を日夜こなし、やれることは全てやって臨んだ夏。清清しく次のステージへいける。そんな感慨が敗戦の感情を上回ったのだろう。

 それはそうと、中日に喫した初黒星は実にもったいなかった。近ごろ苦しんでいた右京が指揮官・藤川球児の粋な起用に応えたのだから余計に…。

 その右京に確かめられなかったことを一つ書くならば、やはり中西を撃った初回の打席である。中西は前打者、大山悠輔に死球を当てていた。もう内角はこない。外の変化でストライクを取りにくる。そんな想定がなければ、満塁で初球のフォークにあのスイングはできない。次会ったとき、こちらの想像を答え合わせしてみたい。あの夏の軌道を懐かしみながら。=敬称略=

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