股関節の柔らかさゆえ
【7月2日】
W杯を戦ったサッカー日本代表が米ヒューストンから帰国した。成田便と羽田便に別れて到着したそうだけど、ファンが出迎えた空港ロビーで特にトラブルはなかったようだ。
元サッカー担当として、いや、90年のイタリア大会からW杯を見てきたサッカーファンとしては、まだ空虚感から抜け出せずにいる。
98年のフランス大会では帰国の成田空港で城彰二がファンから水をかけられるなど激しいバッシングにあった。 あの頃と比べれば、日本代表の技術、戦術などすべて進化しているし、期待値も違った。ただ、決勝トーナメントでブラジルと戦う日本を見て感じたことを正直に書けばやはり差はあった。何年も前から言われている「個」の差がまだあるような気がする。ボールを蹴る。とめる。前線なら収めて前を向く。W杯の痺れるノックアウトステージでそれを正確にやり抜く技術を代表メンバーの何人が持っているか。
しかし、なぜ、ブラジルのボールタッチはあれほど正確で、しなやかで、強いのか。ヒントは股関節にあるといわれる。サッカー担当時代に聞いたのは、ブラジルの選手は概して股関節を起点として重心移動するということ。これによって蹴る動作における脚腰の負担が軽減されるとともに、ドリブルのキレとあの独特の柔らかさに繋がるそうだ。人種的な天性の可動域もあるのだろうか。アジアの大会では、なかなかあの動きを見ることはできない。
さて、こちら西宮産のアスリートは股関節がとても柔らかそうに見える。長年見るサッカーに対してはどうしても厳しい筆になるけれど、この若虎が本番で戦う姿を見るのは初めてなので軽々に書けない。それでも、彼の身体能力が高いことだけは分かる。
甲子園でプロ初登板、初先発の下村海翔である。
旧知の阪神のトレーナーによれば、彼は「股関節が柔らかい」ゆえ、踏み出す左足の使い方は最大限にボールに力が伝わるそれだと聞いた。また「他のスポーツをしても大成するようなバネのあるアスリート」だともいう。
4時間半を超えたゲームは疲労感の残る結果になったが、それでも指揮官の藤川球児は、中盤まで試合をつくった下村を称えることを忘れなかった。
「十分に、力強くやってくれたかなと思います」
しなやかな股関節で5回2失点。とにもかくにも真っ直ぐが良かった。初モノとの対峙は基本直球を待つものだが、中日の打者はその強さに手を焼いていた。また、技術の高さという意味では本人が「良かったなと思えるのはフィールディング」と振り返ったように、五回の守りでそれを感じた。無死一、二塁で柳裕也のバントを三塁へ投げて封殺したわけだが、あの局面は一つアウトを欲しがって一塁へ投げがちだが、フィールディングによほど自信があるのだろう。まるで迷いがなかった。下村にとっては抑えても打たれても「経験」。そんな舞台で存分に将来性を感じさせてくれたことがこちらの心を癒やしてくれる。=敬称略=
