誰のせいにもしない覚悟

 【8月2日】

 藤川阪神の「強さ」をはかるにはうってつけのシチュエーションがいくつかあった。まずは下村海翔の立ち上がり。1点を失った初回の守りでピンチが広がった。エラーによるものだ。

 前川右京の送球ミスを糾弾するであろうプロ野球OBの評論、ヤフコメ…読まなくても分かる。下村が後続を断って事なきを得たが、さらに、2点リードの四回には再び前川のミスもあって追いつかれてしまった。神宮のレフトは照明が目に入って厄介だと何度も聞いたことがあるが、飛球を捕球できなかった本人は「やってしまった」感しか残らない。うなだれる背番号58を眺めながら、ここで藤川球児がどう動くか興味があった。故障明けの前川をこの日ファームから昇格させ、いきなりスタメン起用したのは指揮官だ。懲罰交代はあるのか?それはなかった。

 背中に死球を受けて骨折した7月半ばの広島戦からまだ2週間ちょっと。それでも、球児は前川の力を欲し、また前川も意気に感じてフィールドに飛び出したはずだ。そんな彼のミスをチームみんなでカバーできるか。それが試されたゲームだったように思う。

 最後はキャプテン坂本誠志郎の決勝弾で3タテを決めたわけだが、球児は

打線、そして下村を称えたうえで前川の早期復帰についてはこんなコメントを残した。

 「また明後日からチームの中に入って、いい歯車として機能してくれることを願いますね」

 ミスを咎めることのない激励は間違いなく前川を奮い立たせるだろうし、今度は彼が誰かをカバーする機会も必ず訪れる。それこそが強者にあるべきプラスのスパイラルである。

 それにしても僕なんかのシロウトには、なぜ、前川がこんなに早くゲームに復帰できたのか理解が及ばない。だって骨はまだくっついていない。でも全力でバットを振る。腕も振る。

 阪神でかつてチーフトレーナーを担った方にばったり会ったので、かつて骨折してもプレーを続けた選手を例に分かりやすく解説してもらった。

 「カネの場合、脇腹をやったときに聞いてきたんだよ。『プレーしても骨が歪んでくっつくことはないんですよね?』と…」

 試合に出続けることで折れた骨が間違って血管に突き刺さるようなことはない。金本知憲は最悪の「可能性」を確認したかったそうだけど、そのあとチーフトレーナーに確かめたのは…

 「それなら痛みを我慢すればいいだけですよね」

 「やる」と言えばやる。悪化しても誰かのせいにするわけじゃない。今回の前川はきっとそれに近い。半月も経たないうちに復帰すれば絶対に痛いはずだが、本人は覚悟を決めたんだと思う。我慢すればいいだけ、だと。

 元チーフトレーナーは懐かしむ。

 「カネは言ってたよ。『試合中は痛みを忘れるんですよ』って…」

 この夜「みんなに感謝したいです」と、チームメートのカバーリングに頭を下げた前川右京が強靱な歯車となってやり返す日を待ちたい。=敬称略=

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