黄金期だから為せる選択

 【8月14日】

 カープが炎天下でシートノックを行っていた。14時ごろだ。マツダスタジアムで赤い野手が打撃練習の前に各ポジションに散らばり、汗まみれでノッカーの打球を追う。

 活気みなぎる高校野球。プロ野球でいえば春のキャンプ。そんな光景だった。概して試合前の野手練習はウオーミングアップのあと打撃が始まり、シートノックは試合前。そんな慣例がある。一年で一番暑い季節の真っ昼間にこの練習風景はなかなか見ない。

 何のために?汗だくでこの様子を見ながら、勝手に想像を膨らませた。

 低迷を打破するための荒療治?

 令和の時代にそれは乱暴か…。

 「えげつないくらい暑いでしょ。熱中症対策でね…」

 カープヘッドコーチ藤井彰人にワケを聞けば、そう言う。これだけ聞けば分かりにくいが、何でも、球団トレーナーからこんな指南もあったという。

 例えば、試合の30分ほど前にノックを受けてそのままプレーボールを迎えれば熱中症のリスクが高まる。ノックのあと、一度水シャワーを浴びてから試合に臨むほうがリスクは少なく-。

 昨年のカープは夏場にシートノックを省いていた記憶がある。過密日程による疲労、体力温存等々の理由を聞いたが、今年もいっそのこと、夏場はシートノックをなくせばいい。いや…最下位の状況でその選択肢はないか?藤井は「そうです」とは言わなかったが、そんなふうに想像してしまう。

 翻って阪神は?

 岡田彰布政権ではグラウンド不良の日を除きシートノックをやり続けた。

 「野手の毎日のリズムやねんから」

 岡田はそう語っていた。

 連覇を狙う藤川阪神はこの夜、シートノックを行って試合に臨んだ。

 東京からの移動ゲームだし、疲労考慮で省くか?そんな想像もしていたが、ゲーム前にしっかりやった。

 記憶が曖昧なので周囲に聞けば、今年はシートノックをやらずに試合に臨んだ日も何度かある。やる、やらないの理由は様々だろうけど、そういえば、3連覇時代のカープは結構な頻度で「やらない」チョイスもしていた。強い時代は堂々選択肢を広げられる。そんな空気感は間違いなくあると思う。

 赤ヘルの3連覇時代といえば、この日、広島市内の書店でその立役者の一人、田中広輔の著書『赤き戦士からの感謝状』(ザメディアジョン)を買ってみた。田中は同著の中で「感謝する恩人」に当時のコーチ石井琢朗を挙げ、「プロ入り当初から守備を徹底的に鍛えてもらった」と記している。あの時代に初めてゴールデングラブ賞に輝いた功績は石井とともに積み重ねた鍛錬の成果だ。「タナキクマル」の一角を担い、攻撃の核弾頭として名を馳せた。「(石井は)成功体験よりも自らの失敗体験をもとにいろんなことを話してくださった」と感謝する。

 今の阪神にも指揮官球児をはじめ、コーチ陣が自らの経験を源泉に試合前の準備を練る。黄金期だから為せる建設的な選択がVの視界を広げてゆく。=敬称略=

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