幻の橋を見た まるで古代ローマの水道橋…滅びゆく美しさに言葉を失う

 糠平湖にたたずむタウシュベツ川橋梁。古代ローマの水道橋を思わせるアーチ美が印象的だ
 糠平湖にたたずむタウシュベツ川橋梁。古代ローマの水道橋を思わせるアーチ美が印象的だ
 橋上は立ち入り禁止
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 北海道は十勝の原野に“幻の橋”を見た-。上士幌町の「タウシュベツ川橋梁」は、旧国鉄・士幌線時代にわずか18年間しか使用されなかった鉄道遺産だ。糠平湖の水位により“浮き沈みする”外観は、古代ローマの水道橋を思わせまさに絶景。ヒグマとの遭遇におびえながら、探検ツアーに参加した。

 ◇   ◇

 林道に立てかけられた「ヒグマ出没!」という看板、周辺には熊ザサを食い散らかした形跡も…。「たま~に出ますねぇ。月2回ぐらいかな」と笑うガイドさんの言葉に、背筋が少し寒くなった。

 橋を目指して線路跡を歩く。周囲は森におおわれ、まるで“緑”のトンネル”だ。足元には流木が散乱、前日の雨で足元はぬかるみ、ゴム長靴でも足取りはおぼつかない。

 “緑のトンネル”を抜けると一気に視界が広がった。穏やかな糠平湖に、取り残されたように「タウシュベツ川橋梁」が姿を現した。周囲は湖に流れ込む水音と、野鳥の鳴き声だけが聞こえてくる。バックには薄雲かかる大雪連峰。北海道ならではの壮大で神秘的な絶景に言葉を失った。

 全長130メートル、高さ約10メートルの橋げたが11連続く崩れかけたアーチ橋は、まるで古代ローマの水道橋を思わせる美しさだ。

 1939(昭和14)年に全通した旧国鉄・士幌線。タウシュベツ川橋梁は37年に完成した。当時の国鉄の技術の粋を集めて造られたコンクリート製アーチ橋だった。戦時中や戦後復興時に、周囲の豊富な森林資源を切り出し、中央に送り込むため林業が繁栄。8620型や9600型の蒸気機関車に引かれた木材列車がこの橋を渡ったという。

 だが水力発電のために開発された糠平ダムが55年に完成すると、士幌線はルートを変更。橋梁がある旧線は放棄され、タウシュベツ川橋梁は湖に沈むことになった。

 ダム湖にあるタウシュベツ川橋梁は季節によって違った姿を見せる。春頃には橋げたまで出る。やがて雪解け水が流れ込み次第に水位が上昇。この頃は早朝にアーチが湖面に映り、「めがね橋」として人気を集めている。夏から秋にかけて橋は水没。発電のためにダムから水を抜く冬には、凍った湖面に再び橋が姿を現す。その年や時期によって見える姿が変わることから、“幻の橋”とも呼ばれ、北海道遺産にも認定されている。

 湖に置き去りにされてから63年。北海道の厳しい自然にさらされた橋は、昭和初期の建造なのに、古代遺跡のようにボロボロだ。「20年くらい前までは、もっとコンクリートがしっかりしていて、橋の上から釣りも出来た」とガイドさんは思い出を語る。

 毎年水に削られ、特に真冬は70センチの氷の下におおわれ、コンクリートに染み込んだ水は内部で凍って膨張し、劣化がかなり進行しているという。

 コンクリートがはがれ、中の砂利が露出し、今にも崩れ落ちそうな“幻の橋”。朽ち果て滅びゆく美しさにわびしさとロマンを感じずにはいられない。一生に一度は訪れたい鉄道遺産だ。この絶景を今のうちに、ぜひ-。

 ◆旧士幌線アーチ橋見学ツアー タウシュベツ川橋梁に続く林道は許可車両以外乗り入れできないため、地元の専門ガイドによるツアーが便利だ。タウシュベツ川橋梁の他に幌加駅など見どころを数カ所回る。参加費はレンタル長靴込みで大人3500円、小学生1500円。

 現在、橋は北海道内の大雨の影響で完全に水没しており、他のアーチ橋を巡るツアーを案内している。ダムの放流などで橋が水面から出てくる可能性はあるものの、基本的には厳しい見通しとのことで、要問い合わせの状況となっている。

 問い合わせは「NPO法人ひがし大雪自然ガイドセンター」TEL01564・4・2261。またはホームページhttp://www.guidecenter.jp/から。

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