【ボート】本当にグレートすぎる日高逸子の歩む道
「ボートレース記者コラム 仕事・賭け事・独り言」
ボートレース界は11月が節目。新期の宮島ボートでは『G3オールレディース・宮島プリンセスカップ』が5日に開幕。豪華メンバーが連日華麗なる戦いを繰り広げた。優勝戦出場の小野生奈、深尾巴恵、川野芽唯、実森美祐、大滝明日香、米丸乃絵の他、遠藤エミ、三浦永理、守屋美穂、浜田亜理沙、鎌倉涼、高憧四季ら現在の女子ボートレース界を代表する顔がズラリ。人気と実力を兼ね備えたレーサーが集結し、連日スタンドに大声援がこだました。
準優勝戦が行われた9日は、今年8月に引退された日高逸子さんが宮島ボートに来場。引退後、犬猫保護啓発活動を行っている元選手の池田明美さんと共にトークショーを行い、文字通り“新たなステージ”に立つ凜とした姿を見せてくれた。
トークショー後、ステージ裏で関係者に日高さんが挨拶されていると、ジャストタイミングで車がビューンと乗り付けられた。あの達川光男さんだ!!今大会3日目の7日『宮島公式YouTube番組ブッちぎりィ!』にゲスト出演し、しゃべりまくって司会者をきりきり舞いさせた、あの達川さん。カープOB、野球解説者、最近ちょいちょいボートのYouTubeで解説&予想もしている、プロ野球珍プレーでおなじみの、いやいや、そんな肩書など不要な、あの達川さんが日高さんに挨拶するために駆け付けた。聞けば土日は野球教室の仕事があったとか。その直後に飛んで来られたのだ。この瞬間を逃すわけにはいかない。前々から、達川さんと日高さんは面識があり、達川さんが日高さんのプロ根性に敬服しておられたことは知っている。YouTube配信スタジオに乗り込み、拝み倒して2ショット撮影にこぎ着けた。例によってワチャワチャしながらカメラを向けると、達川さんはスタジオで何事かと見守るスタッフに向かって「西島義則です」とボケをかます。さすがである。ひと言でこの2ショットの関係性が分かる。ボートレース界と野球界。今ではファンを公言するプロ野球選手も多いが、古くからその橋渡し役を担っていたのは西島義則なのだ。
日高さんと達川さんの出会いは、九州地区にあるボートピアのトークショー。「プロとしていろんな話をして共鳴する部分がたくさんあった。人気を背負う1号艇で走る時の責任感について語る日高さんに感動した」と達川さんはしみじみ。今でこそSGでバリバリ活躍する女性レーサーは多いが、その道筋を作った一人が日高さん。「あの時代は大変じゃったと思うよ」と男社会に切り込んだ、若き日の日高さんの姿に思いをはせておられた。
そう、あの時代はすごかった。私はこの目で見てきた。女性がSGレースを走ることなど許されない空気感。各地区には『関門の虎』『魔人』『黒い弾丸』『モンスター』ら三国志の武将みたいな猛者ばかり。私も正直怖かった。その世界に挑んだのが鵜飼菜穂子さん。その姿を追いかけ、厚い壁に猛アタックし続けたのが日高さんだ。22年11月2日、鵜飼さんを抜いて女子最年長勝利記録を更新した際、私はYouTubeのインタビュアーを務めた。その時の言葉が印象強い。「ずっと鵜飼さんを目標にしてきたのでうれしい。遠藤エミさんがSGで優勝したことは女子選手全員の喜び。SGで女子が走れるようになったのは鵜飼さんが先駆者。今は、出産して復帰するのが当たり前でママさんレーサーだらけ。復帰してからさらに強くなる人が多い。高塚清一さんの域までは無理でも、自分もまだまだ現役で走りたい。元気で走り続けることが一番」と語っておられた。だが今年3月1日に高塚清一さんは現役のまま天国へと駆け抜けられ、日高さんは4月4日の桐生を最後に休業し、8月に自身のブログで引退を発表された。
日高さんの引退は大きく報じられ、本紙には鵜飼さんの言葉が掲載された。これが刺さった。「男子強豪を相手に戦って、日高がトイレで泣いていたこともあった。彼女は一匹狼タイプ。名前通り、逸子だった」。ああ、あの時代を共に戦った鵜飼さんだからこその言葉だなと涙が出た。女子ボートレース界の創生期は、独身で現役続行か、結婚出産で引退の二択。鵜飼さんが突っ走り、佐藤幸子さんが出産後復帰の道を切り開き、日高さんが新たな生き方を提示した。多様な生き方を選択する女子選手は魅力にあふれ、女子ボート界は一時的人気にとどまらず、今なお圧倒的支持を集めている。それは先人たちの功績があってこそ。中でも日高さんは常に時代の最先端を歩み続けた人。書籍やブログを用い、自らの言葉で発信する新たなスタイルを確立した。今では当たり前のことを、誰よりも早く実践したことに意味があるのだ。
日高さんの近況はご本人のブログで、輝かしい実績は他で確認してもらうとして、私が伝えたいことは西島義則の日高評。昨年8月に通算3000勝、9月に出走回数1万走以下で5000回2連対という大記録を打ち立てた西島は、こう語っていた。「自分たちの時代は1、2着に絡んでこそ。最近日高が2着しか取れんと言うとったが、若いもんを相手に2着を取るのは立派じゃ。自分は日高をリスペクトしとる」。あの西島がリスペクト。コレこそが最大の功績じゃないか。男女の垣根を越え、同じ時代に、同じ世界で戦った盟友として認められた証しだ。さらに西島は「3000勝のお祝いに、日高が山崎(ウイスキー)をくれたんよ。もったいなくて飲めんわ」とも。日高さん、粋だわ。やっぱりセンスが違う。西島の話を聞きながら、私はいつか西島と日高さんのビッグ対談を実現させようと考えていた。その際のインタビュアーは達川さんでと妄想。いや、三日三晩じゃ終わらない。達川さんの独壇場になってしまう。何にせよ、達川光男、西島義則を敬服させた日高逸子。そこが一番グレートすぎる。3者のビッグ対談で、あの山崎飲みません?と、今度西島に提案してみよう。(ボートレース宮島担当・野白由貴子)

