【野球】先輩からの「バカか」で引退を決意 ユーティリティープレーヤーは指導者に
先輩からの喝がなければ指導者の道はなかったのかもしれない。阪神、近鉄、楽天で17年間の現役生活を送った星野おさむさん(54)は感慨を込める。2005年の現役引退後、楽天のコーチを5年間務め、その後は独立リーグの監督、コーチ、GMを歴任してきた。今年から千葉スカイセイラーズGMに就任した星野さんが、運命を変えた先輩との会食、指導者としての日々を振り返った。
◇ ◇
球界再編によって所属球団の近鉄が消滅した星野さんは、2004年11月の分配ドラフトで新規参入球団の楽天へと移籍した。
新天地で迎えた2005年シーズン。35歳になった星野さんは故障もあり出場は20試合にとどまった。オフには阪神時代の2001年に続く、2度目の戦力外通告が待っていた。
「楽天を1年でクビになって、どこかで現役をやろうかなと思ってた時に、チームに残る先輩たちが送別会を開いてくれたんです」
その前日、星野さんは球団に呼ばれてコーチ就任を要請されていた。
「監督としてやって来る野村(克也)さんがコーチをやらないかと言ってる、と。そんなわけないだろって思って」
中村武志捕手、山崎武司内野手、河本育之投手らが開いてくれた送別会の席で、星野さんはコーチにはならずに、現役続行の道を探ることを報告したという。
「体もまだ動くし、不完全燃焼だったんで『どこかでやります』って言ったんです。トライアウトでも受けようかと。そしたら、中村武志さんに『バカか』って怒られて。球団に残れる人間がどれだけいるんだ、どこかに移籍しても何年現役を続けられるか分からない、絶対に残れって言われたんです」
先輩たちの言葉は心に突き刺さった。星野さんは要請を受け入れた。「それで残ることになって、こういう道に来たのかもしれないですね。あの時の会食は大きいです」。当時を回想し、親身に寄り添ってくれた先輩らに感謝した。
創設2年目に楽天監督に就任した野村氏とは1999年から2001年までの3年間、監督と選手の関係だった。ただ、星野さんは当時の野村監督に劣等生扱いをされていた思いがあった。そんな野村監督が自身をコーチに迎えようとしていることが、にわかには信じられなかった。
「ミーティングでノートを取らないのは、星野と新庄(剛志氏=現日本ハム監督)とか言われてたんです。2人とも絶対に取ってたのに」と苦笑する。新聞記者経由で小言を聞かされることもあった。「阪神時代にちゃんと話したのは1回しかない」。その内容ははっきりと覚えている。
「プレーに関しての指導ですね。試合中ベンチの横に呼ばれて、バントを2回続けて同じ一塁側にやったことをナンセンスだと言われました。やるんだったら今度は逆じゃないか。一塁が出てくるんだったら一、二塁間を抜けばいいんじゃないかといった話をコンコンとされました」
阪神時代には消化しきれなかったという野村監督の教え。だが、近鉄、楽天で現役を続けていく中で自分なりに咀嚼することができたという。
「やっぱり野村さん、岡田(彰布)さんの影響はすごいんですよ。野村さんはこう言ってたな、岡田さんはああ言ってなと。それを肥やしに指導者になってからやらせてもらった」
野村監督、そして阪神の2軍監督だった岡田氏の名前を口にした。
楽天では2軍守備走塁コーチに始まり、1軍打撃コーチ補佐、2軍打撃コーチを計5年間務めた。1軍では、野村チルドレンだった池山(隆寛)打撃コーチの「補佐」役となったことで多くの学びがあった。
「池山さんはブンブン丸って愛称がありましたけど、超細かいんです。配球とか人の癖を見るのもすごい繊細で。遅れないよう、自分も超細かく見るようになって。池山さんは練習のやり方もいっぱい持ってたから、全部引き継がせてもらいました。いい経験でした」
成長する選手の姿に、指導者としての喜びを知った。コーチ就任1年目に高卒で入団してきた選手には強い思い入れがあったという。
「銀次と枡田(慎太郎)の2人は、1軍でレギュラーにさせたいって思って2、3年付き合ったかな。12時くらいまで2人とも寮でバッティング練習をするんですよ。夜間練習は楽天のコーチだった5年間、ずっと見ましたね。それはちょっとした自慢。(選手たちと)絆はちょっとある」。
現役時代に多くの指導者と出会い、教えを受けてきた。そこに自分の色を加えて還元してきた。
2026年のBCリーグ参戦を目指す千葉スカイセイラーズのGMに就任した今季。チームは25日のBCリーグ・山梨との交流戦で船出する。
「まずは目の前のこと。このチームを何とかしていきたい」
これまでの経験をいかして星野さんは挑戦を続ける。
(デイリースポーツ・若林みどり)
星野おさむ(ほしの・おさむ)1970年5月4日生まれ。埼玉県出身。埼玉・福岡高から88年にドラフト外で阪神入団。93年4月に1軍初出場。2001年に戦力外となりテストを経て02年に近鉄入団。04年の分配ドラフトで楽天移籍、05年限りで引退。実働13年で738試合、1537打数387安打、打率・252、24本塁打、155打点、27盗塁。06~10年まで楽天コーチ。11年から四国IL愛媛監督、BCリーグ武蔵監督、福島GMなどを歴任し、25年1月に独立リーグ千葉のGMに就任。
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