大久保嘉人へ…スペインからのエール
2014年6月14日
その夜、数人の仲間が集まって酒を飲んだ時にはビリヤードのキューを振り回しながら不自然なほど陽気に振る舞った。もちろん退場シーンに関するコメントは、電話をかけて励ましたときに「関係ね~よ」と言っただけ。練習場とスタジアム、あとはたまに近くのショッピングセンターを行くぐらいの毎日で、チームメイトやスタッフらと十分な会話ができず、得られる情報は圧倒的に少ない状況。さらに長男の出産から一人暮らしを余儀なくされる状態が続きストレスはピークに達していた。
日本帰国が決まりスペインを去る時、空港には付き合いのあった日本人50人が集まった。いつまでも手を振り後ろ向きで搭乗口に進んでいく大久保は、荷物チェックを目の前にしてうつむき、左腕に顔を埋め肩を何度も大きく揺らした。その姿は前年マジョルカが奇跡の1部残留を果たした「功労者」の姿ではなかった。
“苦悩”はJ1神戸時代にも抱えていた。公約通り2010年南アフリカ大会に出場したあとの12年、久しぶりに再会し、外国生活のコミュニケーションについて話していた時だったか「だからオレうまく行かんかったんかな…」と自身の国外挑戦を振り返り反省していたことを覚えている。ただ良い意味で考えすぎないラテン的な性格がそう言わせるのだろう。「今やっているサイドアタッカーで手応えを感じている。このポジションでまた挑戦できるといいね」と。文字通りの看板としてチームのプレーぶりや補強にまで気にかけながらも自分自身のプレーで幅を広げ、新境地を開拓していた。
そして13年から川崎へ。莉瑛夫人は「神戸で満足していたから出て行くのは本当に嫌だった。だけど、ここでもいろんな人に良くしてもらって快適にやっている」と話す。高校を出てから、ずっと拠点にしていた関西を離れ30歳になってからの決断だったが、新天地行きは“吉”と出た。あくまで運任せではない。大久保は健康管理にもより気をつけており「引退後のこと?考えてない、考えてない。40歳まで現役で行くよ」と意気盛んだった。
いわゆる超一流の選手の定義が一線で活躍し続け、どの監督の元でも主力であり続けることだとすれば、大久保嘉人はこれに当てはまらないのかもしれない。ただ一度ノッた時の手がつけられない勢いは日本人選手の枠を越えているのではないかと思っている。また相手が格上の時や苦しい展開で個性を発揮できるところも異色だと言えるのかもしれない。
前年に活躍して迎えた2005‐06年シーズン、マジョルカの大久保は開幕戦をエースとして迎えながら、試合が進むほどに出場機会を減らした。その時、地元の記者がやけに自信満々に言っていたことを今、思い出している。「良い選手はどれだけ調子を落としたりケガでピッチから離れても絶対戻って来る。ヨシトもそうだよ」。そのシーズンのマジョルカで大久保はこの記者の予想を実現できなかった。それでも冒頭のコメントのようにいろいろな経験を積み、再び一線へ戻って来た。いくつかの曲折を経て選手として完成の域に近づいている“元やんちゃ坊主”が、ワールドカップでひと仕事しそうな条件は十分にあるし、そうなってくれることを期待している。(デイリースポーツ・島田徹通信員=スペイン在住)
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