大の里と高安、恩返しの土俵 勝負の非情さもすがすがしく
大相撲春場所は大関大の里と平幕高安による優勝決定戦で盛り上がった。11歳も年齢の離れた両者の間には、深い縁と絆が築かれている。24歳の大関が35歳の元大関を下した場面は、勝負の世界の非情さとすがすがしさがにじんだ。
大の里の師匠である二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)は、高安にとって旧鳴戸部屋から田子ノ浦部屋時代の兄弟子に当たる。大学4年時の大の里が二所ノ関部屋に体験入門した際、胸を借りたのが高安だった。
昨年4月下旬、大の里は20歳未満の力士との飲酒が発覚し、日本相撲協会から厳重注意を受けた。落ち込んでいた時期に感謝する出来事があった。
4月25日の春巡業。大の里をみっちりと鍛えた高安は稽古後、質問コーナーに臨んだ。期待の若手を聞かれ「大の里です」と即答した。
支度部屋で本人に歩み寄り「今は土俵の上で頑張るしかない」と励ました。大の里は胸が詰まったという。「あの稽古と言葉で前を向けた」。
角界では、稽古や日常生活でお世話になった先輩に本場所の土俵で勝つことを「恩返し」という。2人の熱戦の背景には、心温まる人間模様があった。