歌舞伎俳優の尾上菊之助（４７）改め八代目尾上菊五郎襲名披露、尾上丑之助（１１）改め六代目尾上菊之助襲名披露の「お練り」が３１日、東京・神田明神で行われた。約２０００人の来場者が見守る中、菊之助と丑之助の親子はラッパーのＺｅｅｂｒａ（５３）のラップに乗って歩み、本殿で菊之助の父の七代目尾上菊五郎（８２）と合流するという伝統と現代の文化が融合する演出を見せ、成功を祈願。菊之助と丑之助は特設舞台で奉納舞踊「七福神」を披露し、決意を語った。

　菊之助が「異なる分野が同じ時代に同じ場所で融合する。これが、歴代菊五郎がさまざまなことを試みてきたこととつながる」と語ったように、伝統と革新が融合したド派手なお練りだった。

　襲名披露興行に向け、神田明神で初めて行われたお練り。神田明神は１３年に菊之助が結婚式を挙げ、１８年には文化交流館の開業記念式典で七代目菊五郎と菊之助が奉納舞踊を披露するなど、音羽屋とは関わりが深い。

　菊之助の「古今まれなるお練りの始まりでございます」という力強い宣言に始まり、参道を纏、木遣りを先頭にみこしやおはやし、芸者衆、親族、音羽屋一門ら約２５０人が練り歩く。隨神門では平将門にふんしたＺｅｅｂｒａが「東西エブリワン！」などと横文字を交えて音羽屋の歴史を説明。続くＺｅｅｂｒａのラップに乗って菊之助と丑之助は菊五郎が待つ本殿に歩を進めた。

　菊之助は「父とＺｅｅｂｒａさんのお母さまが昔から交流がございまして、小さい頃にお会いしたことがあった。弟さんとはよく遊んでいた」と私的な関係も説明し、「文化と文化の意味のある掛け合わせをさせていただいて、（見物客に）喜んでいただいたのがとても良かったのではないか」と手応えを示した。

　菊之助は神田明神とお練りに参加した人々に礼を述べ、「音羽屋！」「八代目！」などのかけ声がかかる中、「父・七代目菊五郎が待つところへ一歩一歩せがれと歩みを進めるとともに八代目菊五郎、六代目菊之助になる決意が固まり、高潔な気持ちで身が引き締まる思い」とあいさつ。

　「『変わらないために変わり続ける』という言葉が神田明神様のお言葉にございます。攻め続ける歌舞伎の精神、かぶく精神を忘れず、先人たちの教えを守り力強く八代目菊五郎、六代目菊之助として進んで参ります。初代からの歴史功績を全て受け継ぐつもりで、父が大きくした名前をさらに大きくしていきたい」と決意表明した。

　夜には都内で「襲名を祝う会」が開かれ、歌舞伎界や芸能界、政財界などから約１５００人が出席し、門出を祝った。

　今後は４月２９日に東京・歌舞伎座で行われる「古式顔寄せ手打式」をもって、菊之助は八代目尾上菊五郎、丑之助は六代目尾上菊之助を、それぞれ襲名する。

　その後は「團菊祭五月大歌舞伎」（５月２～２７日、歌舞伎座）、「六月大歌舞伎」（６月２～２７日、同）、「七月大歌舞伎」（７月５～２４日、大阪松竹座）、「吉例顔見世」（１０月、名古屋・御園座）、「當る午歳　吉例顔見世興行」（１２月、京都・南座）、「六月博多座大歌舞伎」（来年６月、博多座）と、来年６月まで続く。

　※尾上菊五郎　歌舞伎の大名跡で、代々世話物を得意とする。屋号は音羽屋。初代は１８世紀半ばに二代目市川海老蔵（二代目市川團十郎）とともに上方から江戸に進出。三代目は幅広い役柄を演じ分けた文化文政期の名優で、音羽屋型と呼ばれる型を残した。五代目は明治期に活躍し、九代目市川團十郎、初代市川左團次とともに「團菊左」と称された。六代目は初代中村吉右衛門とともに「菊吉時代」を築いた大正・昭和期の名優。七代目は現代の歌舞伎界を代表する名優で、人間国宝、文化勲章受章者。なお、菊五郎家には代々の得意な役を集めた「新古演劇十種」がある。

　◆尾上菊之助（おのえ・きくのすけ＝本名・寺嶋和康）１９７７年８月１日生まれ。東京都出身。８４年に六代目尾上丑之助を名乗り、初舞台。９６年に五代目尾上菊之助を襲名。９６年に浅草芸能大賞新人賞受賞。０３年に松尾芸能賞演劇賞・新人賞受賞。０５年に重要無形文化財（総合認定）に認定され、伝統歌舞伎保存会会員となる。ＴＢＳ系「下町ロケット２」「グランメゾン東京」など多くのドラマにも出演。