中村種之助
若手花形の中村種之助が兄 歌昇と共に、第2回「双蝶会」(東京・国立劇場、8月23、24日)を開催する。今年は『菅原伝授手習鑑』の三段目『車引』と、四段目『寺子屋』を上演。「本番までの過程が財産」との言葉通り、中村吉右衛門や、父・中村又五郎に教わり、播磨屋の芸の継承へ意気込みを見せる。若手の中では踊りの上手さに定評がある。立役だけではなく、今年は女方も演じる機会が増えるなど挑戦を続けている。夏の勉強会、そして将来への思いを語った。
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吉右衛門のおじさんの監修で、第2回勉強会を8月に開催させていただきます。演目は、僕がどうしてもやりたかった『寺子屋』を兄に提案しました。それならもう一つは『車引』を…ということになりました。『車引』の梅王丸と『寺子屋』の武部源蔵はすごくやりたかったお役。幼いころから何度も見てきた演目ですし、父が襲名(2011年)で演じていたのも間近でみてきました。だから手順やセリフなども頭の中ではわかっていたつもりでした。ところが、それを実際に演じるとなると出来ない。稽古を始めたころは、そのもどかしさを特に感じました。
『寺子屋』は松王丸が我が子を身替りに差し出して、主君の遺児・管秀才を救うわけですが、敵方に属しているため、その気持ちの変化を表に出せない。その分、源蔵によって物語が動きます。吉右衛門のおじさんも「『寺子屋』は源蔵次第だよ」とおっしゃっていたので、身が引き締まる思いです。先月は大阪松竹座に出演していたので、集中的に一人でセリフの稽古をしていました。歩きながらとか、ちょっとした時間にも繰り返すことが多かったですね。兄が稽古をつけてもらっているときは、僕も一緒に見ていたので、松王丸の勉強もできました。兄とともに播磨屋の芸を継承していきたいと思っています。
勉強会は、本興行ではできないような大きなお役を勤めることで、自分自身が成長できる。もちろん勉強会当日も大切ですが、そこに至る過程が重要だと思っています。例えば、演目が決まるのが早いので、準備期間も長く取れます。父はもちろん、吉右衛門のおじさんにも見ていただいたり、お話を伺うこともできました。僕たち兄弟がやっているのは「自主公演」ではなく、「勉強会」だからこそ、本番までのプロセスも財産だと思っています。
第1回「双蝶会」から、番附やいろいろなことも自分たちの手でやっているので、舞台というものをいろんな方向からみることもできました。今回は、第1回は撮らなかったスチール写真も撮影しました。そのときに初めて梅王丸に扮しました。5人がかりでつける大変な衣裳ですが、そのなかで分かった役の気持ちもありました。ポスターでは兄が演じる松王丸と、僕が演じる梅王丸がグッと近付いてにらみ合っています。本来はあんなに顔を近づけないんですが、二人でアイデアを出して役の肚(気持ち)を表してみました。隈取も、ポスターを見てくださった先輩からご指摘をいただいた点を参考に、本番まであと少しですが、出番がない時に稽古しています。
勉強会というのは、自分がやりたいもの、本興行ではまだまだできないような大きなお役をさせていただく機会だけに、終わった途端に寂しくなるんです。「双蝶会」は昨年から始めたばかりですので、もし同じ演目をすることがあっても、随分と先の話になります。第1回目では『船弁慶』で静御前と平知盛を勤めさせていただきましたが、達成感よりも実は悔しい思いが残っています。だから勉強会が終わったいまも、時間があるときは踊っています。大好きな演目ですから。いずれ本興行でも、勉強会でやったお役を「種之助に」と言っていただけるようになるのが目標です。
声変わりの頃に一度舞台を離れ、その後戻ってきた時に「自分にどこまでできるのか」と、漠然と不安な想いがありました。いつも見ている吉右衛門のおじさんや父が、自分と同じ役者とは思えず、憧れの存在だったんですね。でも17歳くらいの頃、(中村)勘三郎のおじさんとご一緒させていただいたときに「お父さんが君の年だったときは、もっと上手かった」とおっしゃったんです。その一言で、「父も自分も同じ舞台に立っているんだ…」という当たり前のことに気付き、覚悟のようなものが生まれました。もちろん父を追い越そうとしても、僕が成長した分、父はさらに大きくなっている。だから差は埋まらないかもしれないけど、少しでも近づけるよう、より一層勉強しなければいけないと思っています。
今年はお正月から女方を演じさせていただく機会が増えました。以前から勉強してみたいと思っていたので有難いですね。立役と女方を兼ねるのは難しい事と思っています。まだ、どちらに進むのか分からないですし、演じたいお役も多いので、いまはいただいたお役を一生懸命に勤め、勉強させていただく時期だと思っています。踊りも好きですので、もっともっとお稽古していきたいです。
いまは舞台のことを考えるのが一番楽しいですね。「趣味は?」と聞かれると困ってしまいます。昔は悩んだこともありましたが、いまは僕に歌舞伎というものがあってよかったと思っています。
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中村種之助(なかむら・たねのすけ)1993年2月22日生まれ。播磨屋。中村又五郎の次男。99年2月歌舞伎座『盛綱陣屋』小三郎で初舞台。