「ちょうさん、わんちゃん、見ての通りですよ」 いまの子とは対極だった二代目ミスタータイガース【15】

 いまの子、なんやろなあ…。岡田監督が森下翔太を評した。岡田監督の感じる「いまの子」とは、どういうイメージなのか。恐れを知らず物おじしない、マイペースで大胆、こだわらずあっさり切り替える、練習熱心で真面目、いい子である。

 帽子の被り方は、わたしは好きではない。ツバを真横に真っすぐ広げて、頭に乗せる。球界全体で増えてきたスタイル。ダボシャツでズボンをずらし、帽子を横向きにする、ラッパーと言うのか、わたしには間の抜けた格好に見えてしまう。批判したり、辞めろと言うつもりは毛頭ない。

 悪いとかいいとか、指摘する以前のことだ。認めるも認めないも、すでに存在している。大谷翔平も「いまの子」でないと成立しないだろう。とてつもないことをする。プロ入り1号が甲子園で「1-0」の勝利。60代には理解できないパフォーマンスを打つ前から考えていた。

 「持っている」などと使い古された表現はしないが、説明のできないパワーを持つ人物は間違いなく、この世に存在する。阪神では「ミスタータイガース」と呼ばれた人だ。初代は藤村冨美男、二代目は村山実。背番号「10」と「11」はいずれも永久欠番。「いまの子」とは対極のタイプだ。

 藤村さんとは晩年、甲子園で顔をお見掛けしたくらいで、面識はない。村山さんとは1988年、二度目の阪神監督をされたときに、トラ番として濃密な時を過ごした。就任直後の12月、名球会の豪州旅行に同行取材した。ゴールドコーストからシドニー。日本とは逆で、真夏のクリスマスだった。

 リゾートホテルのロビーで、5人のトラ番が村山さんを囲んで座った。監督付きの広報が「ヘイ、ミース」と格好を付けて女性を呼んだ。注文をまとめて「アー、スリーカップカフィー。エンド、ツーカップコウチャー」。はてなマークの女性を見ても、しばらく誰も間違いに気が付かなかった。

 昭和の珍道中。門田博光さんと、福本豊さんが名球会の新会員という時代だった。阪神からは藤田平さんも参加されていた。ロビーをちょうどゴルフ帰りの巨人・長嶋茂雄さん、王貞治さんが通りかかった。

 豪華なロビーに真っ白なクリスマスツリー。半ズボンの2人は真っ黒に日焼けしていた。放たれるオーラは半端なかった。「むらさん、大変だね」。長嶋さんが、記者に囲まれる村山さんに軽く右手を挙げながら声を掛けた。

 「やあ、ちょうさん。わんちゃんも一緒かい。ゴルフ帰りとはいいねえ。こちらは見ての通りですよ。タイガースの監督となると、オーストラリアまで追っかけられてねえ、何か1面のネタを提供しろって」。まんざらでもない様子で、村山さんは両手を広げた。

 天下のONを「ちょうさん、わんちゃん」と呼ぶ。数々の名勝負を残したミスタータイガースだからこそ、ひるむことなく対等に接することができる。甲子園の記者席で、村山さんに「おうユタカ、どうしている?」と聞かれた江夏さんが「ああボス、なんとかやっています」と答えたのを見た。

 ミスタータイガースの称号は、それほど重い。村山さんは掛布雅之さんに「三代目」と呼びかけたが、球団は背番号「31」を、特別扱いしなかった。森下のホームランに、ミスタータイガースの夢を見た。大山、佐藤輝、そして近本。ミスタータイガースの誕生を待っているぞ。(特別顧問・改発博明)

 ◇改発 博明(かいはつ・ひろあき)デイリースポーツ特別顧問。1957年生まれ、兵庫県出身。80年にデイリースポーツに入社し、85年の阪神日本一をトラ番として取材。報道部長、編集局長を経て2016年から株式会社デイリースポーツ代表取締役社長を務め、今年2月に退任した。

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