解説者は近鉄最後の選手、坂口智隆 阪神・岡田監督もうなずく苦労人【23】

 就任直後の秋季キャンプから春のキャンプ、シーズンに入ってからも阪神・岡田彰布監督とは何度か、会食したり電話したりする。いまのわたしは、現場に出て取材する立場ではない。

 今季の阪神戦はすべてテレビで見ている。関西エリアではサンテレビが完全中継するが、放送する試合は限られる。地上波の中継は少なくなった。

 何らかのテレビセットに加入していれば、すべての試合を開始から終了まで見ることはできる。恵まれた視聴環境になった、と言えなくもない。神宮のヤクルト戦はCSのフジテレビONEで見た。思わぬ解説者が登場する。「えっ、この声はだれや」と番組詳細ボタンを押せば名前が出る。

 (バスケットボールの中継は、入れ込み過ぎのアナウンサーと解説者の感情的な大声で、わたしは試合に集中できなかった)

 神宮2戦目の放送を解説していたのは坂口智隆だった。近鉄最後の選手と言われていた。取材したことはない。全く面識はないし、話したこともない。ところが解説が面白い。

 「神宮の右ポール際は球が高く上がれば上がるほど、フェアゾーンに戻ってくるんです」(佐藤輝のポール直撃本塁打に)

 「そう見えてもちゃんと落ちてヒットになるんです。フルカウントから空振りせずに、すべての球種をファウルでうまく対応していた」(小野寺の右三塁打を、打ち取った打球とアナが表現すると)

 「逆球は打者には、打ちにくい球です。逆球が武器になる投手もいる」(捕手の構えと逆に行く投手の制球力を、否定的に表現するアナに)

 「彼くらいの技術があれば、追い込まれた方が打てる。2ストライクまでは、狙い球が来ない、狙い球が絞れない、となるとバットは出さない。2ストライクからは全球種に対応するから逆に楽になる」(近本の2-2からの右前打に)

 「引き付けてキレイに打とうとすると、野手の正面にいい当たりが行く。投手の狙い通りになる。前で振り切ってしまう方が、間を抜けたり前に落ちたりする」(青柳に遊ゴロが続くヤクルト打線を、当たりは良かったと言うアナに)

 「左のカベが大事と言いますけど、彼は右半身が強い。右の力を使って振り切るとこがいいところです」(森下のスイングに。以前の放送ではフェンス際の好守備に、神宮はフェンスの前が低くなっていてジャンプが難しい、それを分かってぴしゃりのタイミングで飛んだ、と褒めていた)

 アナウンサーが使いがちな野球の常識、慣用句を聞き流さない。選手目線で選手の立場から、現実的なプレーの分析をする。当たり前のようだが、それをしないベテラン解説者も多い。

 しない理由は「邪魔くさい」「言っても素人には分からない」「おれはこんなこと考えていたが、このレベルの選手には理解できない」「他人に教えたくない」「チームや選手、放送局への忖度(そんたく)」などだろう。

 坂口へのわたしの印象と言えば、身体能力は高いが故障が多い。やんちゃな選手。明石出身で、神戸国際大付からドラフト1位で近鉄、オリックス、ヤクルト。デイリーの親会社・神戸新聞が、地元の選手なので引退後に「それでも野球が好きで」と題した連載をしていた。改めて読み返すと、苦労人でもある。

 そんな話を岡田監督にした。オリックス監督時代に3年間一緒だった。岡田監督は「うん」とうなずいた。(特別顧問・改発博明)

 ◇改発 博明(かいはつ・ひろあき)デイリースポーツ特別顧問。1957年生まれ、兵庫県出身。80年にデイリースポーツに入社し、85年の阪神日本一をトラ番として取材。報道部長、編集局長を経て2016年から株式会社デイリースポーツ代表取締役社長を務め、今年2月に退任した。

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