韓国球界のフロント人事に注目 ユニホーム組が編成責任者に
韓国では今オフ、ストーブリーグとともにもうひとつ関心を集める出来事がある。それは球団フロント人事だ。8年ぶりのシーズン、韓国シリーズ総合優勝を果たしたKIAタイガースは、優勝を機に球団団長が社長に就任し、空位となった団長に、なんと今季までヘッドコーチを務めていた趙啓顯(チョ・ゲヒョン)氏が就いた。またシーズン6位で終わったLGツインズは監督が交代したが、その監督・楊相文(チョ・ゲヒョン)氏が団長となった。
団長とは、日本の球団代表に相当する役職。名刺の裏には『General manager』と記されている場合が多い。メジャーのGM職同様、主にチーム編成の責任者ということになる。
趙啓顯新団長は今年53歳。1988年にKIAの前身であるヘテ・タイガースに入団。右の技巧派投手として通算320試合で126勝92敗17セーブ。防御率3.17を残した。その後はKIAの投手コーチを振り出しに、サンスン、斗山とコーチを歴任。12年にはLGのヘッドコーチを務め、14年には2軍監督。そして15年からは金杞泰(キム・ギテ)監督就任にともない、右腕としてKIAの1軍ヘッドを務め、昨季の優勝まで尽力してきた。
楊相文団長は56歳。こちらは左腕で釜山出身。現役時代は9年で63勝79敗、13セーブ。防御率3.59。ただこちらも引退後、出身地である釜山のロッテやLGで投手コーチや監督を歴任してきた。
ふたりのケースを“昇格”といっていいかどうかわからないが、少なくとも昨日までユニホームを着ていたコーチや監督が団長という高位に就くのは、思い切ったことを好む韓国らしい人事だ。以前には、サムスンが2004年に宣銅烈監督を招聘した際、前任の金応龍監督を球団社長にし、初の現場出身者の球団社長と話題になった。さすがに社長はこのケースのみだが、近年、韓国球界では選手、コーチなどいわゆる「現場経験者」が団長に就いた球団が5つある。今回、ふたりの就任で、韓国10球団のうち実に7球団が選手出身の代表となったわけだ(そのうち3名が監督経験者だ)。
現場経験者が団長となるメリット。言い換えれば親会社が団長に期待するものは、ほかならぬ「野球を知っている点」に尽きる。前述するように団長はGM職。その中でもチーム編成上のドラフトやトレード、外国人選手、FAなど、現場出身なら目も利くはずだというわけだ。また一般の団長は親会社からの出向が多いため、野球に関しては素人。その点、現場出身者なら監督との意思疎通も図りやすいし、他球団との人脈も期待出来る。韓国の野球界は日本以上に学閥などの人間関係が縦横無尽に張っている。さまざまな情報の取捨選択も重要となるとき、人脈は非常に役立つ。
なかでも斗山ベアーズやSKワイバーンズの団長は、球界内でも評価が高い。
「斗山の団長はマネージャーからの叩き上げで、球団の仕組みも実情も熟知している。SKの団長は以前、ネクセン・ヒーローズの監督も務めたが、それ以前は編成部門のトップを任されていた。ともに選手としての実績は乏しいが、引退後、地道にプロのと業務で実績を積んで昇格していった」(韓国球界関係者)という人物たちだ。こうした登用で、実際、斗山など常に優勝争いするチーム作りに成功してきた。そのせいもあるだろう。いわば今、韓国球界は“現場出身者の代表職”がブームというわけだ。
ただすべて上手く機能しているかといえば、それはまた別の話。
団長は編成のみならず、球団の人事や宣伝等、業務部門も任の下にある。こうした部門は、現場経験者には不得手だ。いきおい団長とは別の役職の人材を置き、業務部門を見ていくことになる。つまり団長という名称でも、実質的には編成面のみが職域となってしまうわけだ。もっとも、それでもチームの風通しが良くなり、中長期的な戦力バランス、育成がなせれば十分だとは思うが。
ちなみに日本では、なかなか代表職を現場出身者に預けるというケースは稀だ。代表はほとんどが親会社から出向し、代わりに「本部長」といった名称で現場経験者が実務を執る場合が多い。日本も韓国同様、編成以外、例えば連盟などリーグの理事会などに、文字通り球団の代表として参加し、その都度の協議に加わるといった仕事も少なくないためだ。
もっとも、現場経験者すべてに目利きがあり、チーム編成に卓越しているとは限らない。これは韓国のみならず、日本も同様。そして数年で結果を残せなければ切られてしまうのも、また同じだ。要は現場経験者であれなかれ、チームとして中長期的な展望を築く人材を置けるかどうか。それこそが強いチームに最も大事な要素といえる。これも韓国、日本に違いはない。(スポーツライター・木村公一)