韓国球界“FA迷子”増加の理由 観客動員は右肩上がりでも…

 韓国球界も2月のキャンプ目前となった。しかしFA宣言したにもかかわらず、まだ今季の所属先が決まらない選手たちがいる。韓国球界では“FA迷子”という表現があり、こうした現象は今年に限ったことではないのだが、今回ばかりはちょっと異常だ。

 今オフFA宣言したのは15選手。目玉とされた斗山の梁義智捕手が4年総額125億ウォン(約12億5000万円)でNCに移籍したのが12月11日のこと。続いてSKの崔廷内野手が6年総額106億ウォン(約10億6000万円)など3選手が残留したが、11選手が越年となった。そしてようやく今週になって動きがあり、2選手が残留契約を発表したものの、1月下旬になっても9選手が未決のままだ。

 「最終的には残りの多くも残留契約でキャンプを迎えるだろうが、当初、希望していた条件より悪い金額でサインせざるを得ないだろう」(某球団幹部)

 これほど越年、未決が多くなったのには無論、理由があった。

 ひとつは、なによりFA市場の不作だ。前述の梁義智は昨季、打率・358、23本塁打、77打点と打撃がウリの、今、韓国球界ナンバー1と称される捕手。シーズン中から「宣言すれば他球団が手を挙げる」(別の韓国球界関係者)と見られていた。しかし他は2016、17年と2年連続40本塁打を記録した崔廷内野手くらいで、同選手も「移籍の意思は希薄で、好条件なら残留」(関係者)とされ、市場全体が冷めていたのだ。投手にめぼしい選手がいなかったこと、選手たちの年齢も多くが30代半ばを過ぎていたことも悪条件として重なったと見られている。

 前出の球団幹部が続ける。

「韓国では、FA宣言した選手は、原則的に4年の長期契約を求めるのが“慣例”。再契約取得が4年なので、その間を補償しろということです。若ければともかく、35、6歳の選手には無理な相談」

 そしてこう続けた。

「傑出した選手“特Aクラス”の選手なら、どの球団も熱を上げて交渉するでしょう。しかしA、Bランクくらいでは、今、熱心に獲りに行く球団がどれだけあるか。ましてや平均的なレベルの選手が、FA資格を取得し、行使したから高額な条件で再契約してくれ、と言われても、今の球団はどこも応じないでしょう。その点では、ハッキリ言って選手も現実を見るべきなんです」

 それだけ球団としては金を出し渋るようになっている、というわけだ。

 たとえば15年に韓国ロッテから斗山にFA移籍した張元準投手は、当時4年総額84億ウォン(契約金40億、年俸10億、出来高4億=約8億4000万円)という高額移籍に成功した。前年の年俸が3億2000万ウォン(3200万円)だったことを考えれば、破格の待遇だった。左の技巧派として移籍後もエース格の立場で3年41勝(27敗)と貢献しているが、移籍後には「本当の契約は6年100億ウォン(約10億円)だった」という噂まで流れた。ことの真偽は定かではないが、それほど有力選手にとってFAでの移籍は、自身の収入を跳ね上げた。

 いや移籍ばかりではない。16年オフには、韓国球界のエースと言われた金廣鉉投手が所属していたSKと、やはり4年85億ウォンの複数年契約。つまりFA資格さえつかめば選手にとって、それは金のなる木となった。そしてFA選手の年俸上昇が、他の有力選手の契約交渉にも影響を与え、近年、選手年俸はインフレ状態になっていた。

 前出の球団幹部が言う。

「今、韓国球団は10チームありますが、一部の人気球団を除いてすべて赤字経営です。その一部のチームですら決してもうかっているわけではない。しかし選手の年俸だけは上昇する。それは昨今、リーグ全体の観客動員数が右肩上がりのため“球団はもうかっているはず”と選手らが思い込んでいるからです。実際は、赤字の額が多少減る程度で、経営状態はいまだ親会社からの莫大な援助なしには続けられないんです」

 そうした背景もあり、KBO(韓国野球委員会)では、昨秋にFA契約の見直しを選手会側に提案した。

  ◆  ◆

 【1】契約年数は最大で4年まで。総額も80億ウォン(約8億円)とする。

 【2】資格取得を現行の高卒9年から8年に。大卒8年を7年に短縮。

 【3】FAランクを制定。AランクからCランクとして、移籍時の補償など負担を減らす。

  ◆  ◆

 だが、選手会はこれを一蹴。今オフ、球団側が選手に対して「(FA選手に対する)やや冷たい対応は、こうした経営者側の提案をはねつけたことにもよる」(韓国マスコミ関係者)という見方もある。

 代理人制度の弊害を指摘する声もある。韓国では17年から契約交渉に代理人を認めた。それが災いしているのでは、というのだ。

 「以前は球団幹部と選手が相対することで、ある種の情に頼る部分がありました。成績が悪くてもチームの選手という身内意識が互いに働いた。しかし代理人制度で交渉は選手が介在せず。まったくビジネスライクなものになった。そうなれば球団側も数字をタテに、譲ろうとはしなくなった」

 こうしたことから、多数のFA未決選手が生まれたということだ。しかしことはFA選手だけの話ではない。

 前出の球団幹部がこう結んだ。

 「韓国球団の親会社の多くは旧財閥系がほとんどで、ライバル心も強く、チームはいわば親会社の代理戦争のような見られ方をしていました。しかし旧財閥もかつてほどの力(資金力)はなくなり、球団も広告宣伝費としていつまでも補填してもらえる時代ではなくなっています。必然的に選手の年俸も抑えていかなければならない」

 昨今、観客動員が毎年更新されるほど活況を呈し、選手年俸も上昇の一途だった韓国球界。だがFA事情が浮き彫りにするよう、今、ひとつのターニングポイントを迎えているのかもしれない。(スポーツライター・木村公一)

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