台湾の4割打者にNPBの関心が薄い理由 第三者が条件つり上げか
台湾で『大王』のニックネームを持つ王柏融(ワン・ボーロン)外野手(25)。以前にもこのコラムで取り上げたが、台湾球界ではプロ入り後2年連続4割をクリアする“超”のつく巧打者だ。すでに昨季オフから「プロ3年目を終えた今オフ、日本に移籍するのでは?」と話題になっていた逸材でもある。
ただ現状、手を挙げそうだった日本の球団が軒並み消極姿勢を見せている。当初は阪神、オリックスなど複数の球団が関心を示し、台湾に渉外担当や球団幹部を派遣するところもあった。だがここに来て阪神、ロッテなどの編成責任者が続々という感じで「獲らない」と発言。オリックスはすでに今季、3Aで2冠王のジョーイ・メネセス外野手獲得を発表し“外国人の外野枠”を埋めた。巨人の原辰徳監督も「うちは獲らない」と明言。
無論、マスコミに本当のことを言う義務はない。ただ現場(球場)に赴けば、決まって球団関係者から王柏融の話題が出ていたことを思えば、ここまで関心が薄くなるのも、ちょっと奇異な感じがする。
そこで知己のある球団の渉外担当者に聞いてみた。彼は「王柏融が良い選手に間違いない」という前提で、こんな話を切り出した。
「日本の球団は、去年あたりはどこも単純な移籍契約で済むと思っていた。ところが今回、王柏融が所属するラミゴ・モンキーズさんが台湾で初めてのポスティングによる移籍を決めた。通常、外国人選手でも旧所属球団に移籍金を支払うケースはあるけれど、ポスティングとなるとその額が大幅に上回ると考えなくちゃならない」
通常、メジャー球団の選手を獲得する場合、たとえ3A実績の選手でも、相手球団によっては1億円近い移籍金を支払うことはある。ただ日本の球団は今回、どうもそこまでの金額は想定していなかったようだ。
「その上でポスティングとなると…。果たしてそれに見合うだけの成績が出せるか。また他にも獲得予定の新外国人選手はいるわけで、予算も無制限というわけではないし」
さらには、こんな話も出た。
「もうひとつ話を面倒にしているのは、ブローカーの存在です」
王柏融はすでにMLB選手もクライアントに持つ大手代理人会社と契約している。しかしその関係者と別の第三者が、日本の球団に「事前交渉」「予備交渉」と称して条件の打診をしてきているというのだ。「その相手側の提示額は、言えないけれどとても出せる額ではない」のだとか。
もっとも、ブローカーの存在は、今に始まったことではない。一時期、韓国から多くの選手が日本に渡ってきたが、時には代理人と称し(実は選手本人の承諾も得ていないのだが)、堂々と日本の球団に交渉電話をしてくる強者も珍しくなかった。こうした人物は、まず日本の球団から具体的な金額を引き出し、それを手土産に選手本人に接触し「自分を代理人にすればこれだけもらえる」と契約を持ちかけるわけだ。まったくの他人の場合もあるが、叔父だの学校の先輩だの、人脈の中で登場する者が多かった。無論、後にはそのブローカーが正式な代理人として出てくることもあるし、日本の球団も手慣れてはいる。ただ「こうした存在が介入してくると、必ず条件のつり上げに繋がってしまうから厄介」(前出関係者)なのだ。
今回もポスティングの入札金額はもちろん、本人の契約総額がどの程度になるのか、仲介者として知ることが出来れば、大きなアドバンテージとなる。とくに台湾で初めてとなるポスティング制度での移籍交渉。相場はあってないものともいえる。台湾球界の関係者によれば「契約年限はともかく、本人が受け取る金額は、最低でも1年で2億円くらいという想定らしい。しかしそこまで日本の球団が出すだろうか」と、交渉の行方に懐疑的な見方も出始めている。ちなみにこの人物が言う金額は、王柏融本人ではなく、その周辺からまことしやかに出てきている額だ。
もうひとつ、今季、王柏融の成績が落ちていることも日本の球団を消極的にさせている一因でもある。今季、彼の成績は118試合で159安打、17本塁打、84打点、打率・351。決して悪い数字ではないが、17年が178安打、31本塁打、101打点、打率・407だっただけに、評価としては損をしてしまう。また別の日本球団の関係者によれば「苦手なポイントもちらちらと見え隠れする」という指摘もある。
本人とすれば、もちろん日本で挑戦したいという気持ちは強い。聞けば金額条件より出場機会のある球団を希望しているとも。そんな選手だけに、なんとか日本球界入りは実現して欲しいとも思う。ラミゴ球団の発表によれば、台湾シリーズ終了後に入札に関する手続きを始めるという。彼の地のシリーズは、最長で11月4日に終わる。(スポーツライター・木村公一)