目の前で大切な人が倒れたら…命を左右する救命処置 日頃からの意識が重要
「町医者の独り言・第29回」
目の前で大切な人が倒れたときに、その場にいる人の対応にその人の命が左右されるといっても過言ではありません。
先日、土俵で人が倒れたときの看護師さんの対応は、医師の立場からすると見事の一言につきます。どれだけ知識があっても実際に動けるかどうかは、日頃の訓練、意識の持ち方、胆(きも)のすわり方などに左右されます。
今回の場合、心ないアナウンスが流れたにも関わらずに堂々と救命処置を優先したというのは物事の本質を常に捉えた生き方をされているのでしょう。実際、心配停止をした人を1分間放置するだけで生存率が10%ずつ低下するといわれています。まさに1分1秒がその人の人生を左右するのです。
救急車を呼んで、心肺停止の人を放置していると到着時には10分以上経過していることも少なくないでしょう。そうなれば、生存率は限りなくゼロに近くなってしまうのです。そうならないためにも、救急処置を勉強しておくことは大切です。
講習会は、医師会、日本赤十字社、消防署などで受けることができます。最近はAEDが置いてある施設も増えていて、心肺蘇生の成功率を高めている要因の一つです。意識がなく、倒れている人を見かけた場合はできるだけ多くの人に助けを求め、安全な場所に移動することが大切です。これがポイントです。
倒れている人の命を救助することは大切です。けれど、車が往来する暗い場所や土砂崩れが起こる場所で心肺蘇生をしていると救助している人にも被害が及ぶ二次災害が起きてしまうことがあるのです。ですから、まず危険な場所から離れることが最も重要です。
意識がなく、呼吸停止をしていれば素早く心臓マッサージを開始します。この際に人工呼吸は必ずしもしなくてかまいません。B型肝炎などの感染症があり、口から血を流している場合などは、感染する危険があるからです。
AEDがある場合は素早く装着し、器械の指示に従います。なければ、救急車が到着するまで心臓マッサージを続けます。それ以上の詳細は講習会などに譲りますが、大切なことは、日頃からこのような意識を持つこと。みなさんも忙しいとは思いますが、少し時間を作って講習会を受けて頂きたいと願っています。
◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。