お医者さんはいませんか?…緊迫の「ドクターコール」に対する医師の思い
「町医者の独り言・第31回」
新幹線や飛行機でドクターコールがかかった時に、自信をもって手を挙げれるような医者になりたいと思い、医師を志しました。以前の私の病院のホームページに載せていた文言の一つです。しかし、先日のような凄惨(せいさん)な事件に遭遇した際、私は何ができるのだろうか?新幹線の中で事件は起きた。現場に居合わせた医師の適切な処置で、けがを負わされた人も一命をとりとめたとの話を報道で見ました。
私は今までドクターコールに遭遇したことはありませんが、よくテレビなどで緊急現場にたまたま居合わせた医師が最良の機転を利かせ、患者さんに関わっている番組が放映されています。自分はここまで機転を利かすことができるのだろうか?と、その医師の動きを感心して見ていました。
ただ、現実では逆の場合もあり、新幹線や飛行機などの中で救命措置をしたにも関わらず、不幸の転機をたどられる患者さんも少なくないことは想像にたやすいです。医療に関わる道具や患者の情報がほとんどない状況で、的確に診断し、その場でできることを尽くす…。状況は千差万別ですが、手を挙げた医師にとって、そこでの最大限の努力の結果であることだけは、みなさんにわかっていただきたい。
突然死の多くは不整脈、心筋梗塞、脳卒中です。現実問題で言うと、自分にできることは、心肺蘇生をしてAEDを装着することではないだろうか…。いつもテレビドラマのようにうまくいくケースばかりではないと想像します。
以前、知り合いの看護師さんが、いつそういう現場に出くわすかもしれないので私は通勤路などでどこにAEDが置いてあるかを確認していると話をしていた。素晴らしい心がけで、プロ意識の高さの表れですね。人生には、上り坂、下り坂、まさかの3つの坂があると、私の師匠はお話をされます。その「まさか」にどう対応できるか?それが大切であると。日頃からの想いが行動につながり、患者さんの命につながるかもしれない。今回の事件を聞いて、改めて日頃の心がけ、勉強の大切さを認識した次第です。
最後に、新幹線の中で勇敢に犯人に立ち向かっていった勇気ある男性のご冥福を心よりお祈りいたします。
◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。