「球児の5ミリ」から28日
【2月27日】
城を見たくなった。火災に遭った首里城の話を当欄で書いたことがあったが、まだ見たことのない城跡が首里とともに「世界遺産」に登録されたことを知りながら機会を逸していた。
今帰仁城(なきじんじょう)跡へ行ってきた。宜野座から車で1時間。藤川球児の囲み会見を取材したあと、レンタカーで沖縄本島を北上した。
標高100メートル。約1・5キロにわたる石垣の城壁は聞きしに勝る壮大さ。エメラルドグリーンの東シナ海を眺望すれば、出張の疲れも癒える。
宜野座キャンプ打ち上げを翌日に控えた今になって、なぜ城か。
球児の築くそれを思うから…なんて書けばキザだけど、しかし本当にそんな存念もあって拝みたくなった。
14世紀の中国の史書によれば、その頃の沖縄本島は3人の主が3つの地域を支配し、覇権を争っていた。北部地域を北山、中部を中山、南部を南山が支配する「三山鼎立の時代」。南山の拠点は高嶺城、中山の拠点は首里城、北山のそれが今帰仁城といわれる。
覇権の象徴として建てる城はそれを誇示するため、そして防守するために強固な牙城でなくてはならない。
この1カ月間、虎城の城主、その挙動を見させてもらった。本来ならキャンプ最終日に指揮官の総括を書くのがコラムの定石だが、僕はその一日前に城跡を訪ね、城守の気概を度々垣間見せた球児にエールを送りたくなった。
この日の会見で指揮官は言った。
「健康なことが何よりです」
岩崎優が登板したライブBPについて問われると間髪入れず…。
「健康」。このフレーズを「球児語録」で幾度も目にした1カ月だった。口だけじゃない。振り返ればキャンプインの朝から言動を一致させていた。
「金沢さん、すみません…」
2月1日のウオーミングアップ中、球児は阪神園芸の責任者・金沢健児に声を掛け、外野の芝生が例年より長いことに言及。カットを依頼した。
その長さ25ミリは確かに宜野座キャンプの22年間で一度もなかった。甲子園の夏芝が12ミリだから約2倍。春のセンバツ時のそれが15ミリだから外野手にとっては、やはり気になるレベルだ。
少しでも「ケガにつながる」リスクがあれば、取り除きたい。天然芝は毎シーズンの気候、雨量によってミリ単位で変化するものだが、投手出身の指揮官が敏感に即応し、阪神園芸はその日の夕方に芝を5ミリ刈って、20ミリに改良。28日間、金沢はこの長さをキープするよう整備を徹底した。先乗り自主トレで1月末に宜野座で守りに就いた近本光司も「長芝」を気にしていただけに球児の計らいがありがたかった。
投手、外野手、そして…朝のサブグラウンドで行われた内野手の特守にこれほど顔を出した将は記憶にない。選手、コーチ、スタッフに寄り添い、これほど声を掛けた指揮官は取材の限り球児のほかには…。虎の城を預かる以上、外音は消えないが、球児の城は球児が守るのだから、球児の思うように牙城を築いてほしい。それが一日早い僕の沖縄総括である。=敬称略=
関連ニュース
