獅子のチーフスカウトに聞く
【3月12日】
濃紺のスーツ、見慣れんねぇ…
そう声を掛けると、旧知の彼は「ですよね…」と笑った。埼玉西武ライオンズ球団本部プロ担当チーフスカウトの嶋重宣である。
昨季まで西武で打撃コーチを担っていた嶋はオフの異動で転身した。スーツ姿を見るのはカープの時以来かも?
「引退してからずっとユニホーム着てましたからね…」
13年限りで現役を退き、翌14年から昨年まで11年間、西武の指導者として後進の育成に心血を注いできた。
近年の西武はいわゆる低迷期だ。昨年は監督の松井稼頭央がシーズン途中で引責辞任するなど混迷を極め、コーチングスタッフも編成も刷新。嶋は編成部門への配置転換で再出発した。2月は各球団のキャンプ地を巡っていたが、それ自体初めての経験だったので「すごく新鮮でした」と言う。
広島、西武で活躍した嶋との付き合いは長い。僕が広島担当だった90年代後半からだから、かれこれ30年近く。投手から野手へ転向し、04年に首位打者と最多安打の2冠に輝いた「赤ゴジラの覚醒」は伝説として野球ファンの記憶に刻まれる。打率・337。189安打。嶋は「あのときちょっとだけね…」といつも謙遜するが、フロックであんな数字は残せない。
東村山で過ごした小学生時代、「西武ライオンズ子どもの会」に入っていた僕にとって、この所沢の球場には特別な思い入れがある。できれば嶋に獅子打線を覚醒させてもらいたかったところだけど、そこは新政権に託し…
「何とか打てるように頑張ります」
藤川阪神との2連戦を終えた西武新監督の西口文也はベルーナドームのベンチ裏でそう語っていた。この日は2得点、前日は1得点。ルーキーや新外国人ら虎投の前に西武打線は繋がりを欠いた。西口の言う通り「打線奮起」が低迷打破の鍵を握っている。
雑談がてら嶋に問うてみた。
かつて3割4分近く打ったあなたはそもそも「投高打低」をどう考えるのか。なぜ今の時代「3割打者」がこれほど減ったのか?
嶋は苦笑した。無理もない。昨季の西武のチーム打率は・212。不名誉にもシーズン最低打率のパ・リーグ記録を更新してしまった。指導のアプローチ、言葉の選び方…自問自答し、悩みは尽きなかったと思う。
だからこそ「打」の苦しみを知る嶋に…。球団に身を置く人だから軽々に発言できないことは承知の上で。
「イチローさんと松井さんがテレビの対談で言っていましたけど、データばかり気にすることで野球がおもしろくなくなってきているというのは、僕も少し感じるところではあります…」
『情熱大陸』に出演したスーパースターの両人が確かにそう言っていた。
「ひとつの考え方」と断ったうえで嶋は続ける。
「これはピッチャーから聞いたことなんですけど、もし、バッターがみんな同じような(バットの)出し方をすれば、ピッチャーは攻めやすくなる、と…」。続きは次回。=敬称略=
関連ニュース
