「人間力」育む作場に
【3月14日】
内田湘大が走ってきた。ウエスタンリーグ開幕戦の試合前である。カメラマン席で練習を眺めていると、カープの背番号63は目の前で帽子を取り…。
「こんにちは。さきほどはすみませんでした。気づかなくて…」
内田といえば虎党の記憶にも新しいのでは?そう、沖縄キャンプ中の練習試合(宜野座)で阪神を相手に4安打5打点と爆発した3年目の内野手だ。ファーム打撃コーチ新井良太との二人三脚で飛躍を遂げる20歳。昨年の11月に良太の紹介で面識を持ち、当欄でも内田の活躍を取り上げた。
なぜ、内田が走ってきたのか。確かめたわけじゃないけれど、良太コーチの人間育成のひとつなのだと思う。決して堅苦しいハナシではなく、礼節の凡事徹底とでもいおうか…。「湘大、吉田さんに挨拶した?」。そんなやりとりがきっとあったのだ。
さて、村上頌樹が5回を無失点に抑えたSGLスタジアム初の公式戦はルーキー今朝丸裕喜の登板もあって盛り上がった。MVP右腕の村上からヒットを放った内田はこれをまた自信に繋げるのだろうか。両軍ミスも出たけれど、次世代の芽を育む新しい作場は、それを見守る者の心を躍らせる。
前日、カープがこの新球場隣接の室内練習場で調整したそうだが、内田は練習の虫よろしく最新鋭設備に興味津々だったという。ゼロカーボン、脱炭素…自然に優しい環境が売りのSGLだけど、阪神2軍監督の平田勝男が負う任務はエコ活動ではもちろんない。
平田はファンにしたためるサインに必ず「人間力」と書き添える。
「15年ほど前かな。大学の同級生の集まりがあって、そこで『お前のサインに座右の銘として“人間力”って書いてくれよ』って頼まれたことがきっかけで書き始めたんだけどね」
「人間力」野球といえば、明治大学野球部の御大・島岡吉郎元監督の代名詞であり、母校の旧友たちの胸には、プロ野球で指導者を続ける平田にそのマインドをずっと継承してもらいたい一念があった。
いつもファンに手を挙げ、笑顔を振りまくファームの指揮官に聞いた。
平田さんは、なぜ、いつもそんなに周囲を明るくできるんですか?
「いやぁ、意識してないけどね」
それも「人間力」では…。
「やっぱりコミュニケーションの力とか、力強く生きるための数々の要素でね…。もともと島岡御大の大学時代のあれでさ…。タイガースの育成方針としても一人の人間が力強く生きるための要素。そのためにはコミュニケーション力だとか、気遣いや気配り、挨拶ができるとか…。『強い』とか『勝つ』だけが人間力じゃなくてさ」
便所掃除やごみ拾いは率先して上級生がやる。そんな島岡御大の教えで育った平田は言う。
「いま、藤川監督が凡事徹底ということをよく言っているよね。掃除だって、挨拶だって、全部そうだよ」
平凡を非凡に努める。そんな人間をつくる畑を耕したい。平田の挑戦が再び幕を開けた。=敬称略=
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